トーマス・アデスの「テンペスト」からの「コート・スタディ」

 

来たる2024年3月20日に、相模湖交流センター ラックスマン・ホールでトーマス・アデスの「テンペスト」より「コート・スタディズ」という作品を演奏します。(14時開演、13:30開場)

 

演奏者は、久保田巧(vn) 長谷川陽子(vc) 亀井良信(cl)そして廻 由美子(pf)

 

カップリングはミヨーのクラリネット  ヴァイオリン  ピアノのための「組曲」、そしてこのメンバーとくれば、もちろんメシアンの「時の終わりのための四重奏曲」です。(通称「世の終わり」ですが、本来の意味は「時の終わり」の方が近いです)

 

メシアンやミヨーについては時間があればまた書きたいと思いますが、今日は、まだあまり知られていないトーマス・アデスの素晴らしい作品についてお話しします。

 

トーマス・アデスは、1971年生まれのイギリスの作曲家、ピアニスト、そして指揮者です。

 

wik.によると、「1995年に室内オペラ「powder Her Face」の過激で露骨な性描写によって悪名を馳せる」などとありますが、今回の室内楽作品のベースになっているオペラは「テンペスト」ですから、ご安心ください。

 

テンペストは言わずと知れたシェイクスピアの作品です。アデスのオペラはその筋に従って書かれています。

 

裏切り、復讐、喪失、などが描かれ、若者の愛や許しもあるのですが、全体にどこか虚しい空気が漂います。権力とはなんなのか、復讐とは意味があるのか、など、考えさせられます。

 

では、この「テンペスト」からの「コート・スタディズ」はオペラの筋を追って短くしたものか、というとそういうものではありません。

 

11分くらいの作品の中に、陰謀をめぐらすキャラクターたちの策略と、権力の虚しさ、喪失の絶望感などがギュッと入っているのです。

 

さらには、「お芝居」らしい生き生きとした楽しい感じもあります。

 

「さあさあ、お芝居が始まるよ〜!」というようなイントロに続き、宮廷(コート)に渦巻く陰謀が、激しく怒鳴るような音楽と、ヤケに優雅な、ちょっと不思議な音楽、絶望的な音楽、などが交差することによって表現されています。

 

そして、音楽は最後に向けてだんだん暗くなり、本当に照明が落ちるように、孤独になって終わります。

 

「テンペスト」の世界とシェイクスピア時代の「お芝居」の世界が同時に描かれている感じです。

現代の音楽ではありますが、バロック音楽の光と影、といったテイストが漂います。

 

ウィリアム・シェイクスピア(1564〜1616)の生きていたエリザベス朝時代、シェイクスピア演劇の本拠地であった「グローブ座」は1599年につくられました。一階は立見席です。みんなワイワイ騒ぐでしょうし、幕で分離された舞台ではなかったようで、となると転換で幕を下ろすこともできません。観客を惹きつけておくのは大変でしょう。シェイクスピア劇のシーン展開がすごく速いのも頷けます。観客と舞台には江戸時代の歌舞伎のような強い一体感があったことでしょう。

 

その展開の速さがこの「テンペスト」からの「コート・スタディズ」の特徴でもあります。

 

相模湖の景色も素敵。お近くの方はぜひ!

https://sagamiko-kouryu.jp/event/1199/

 

 廻 由美子/ 2024年3月8日記