テッセラ音楽祭の記録❻

中川さんはまずはソロで2012年に初登場されました。

東日本大震災の一年後で、仙台ご出身の中川さんご自身も被災されるという大変な中、「だからこそ」という意味も込めて、1時間もかかる大曲、フレデリック・ジェフスキの「不屈の民変奏曲」を演奏されたのです。

 

 

演奏会の数日後に、あるお客様が「あの曲がまだ鳴り続けています」とおっしゃったほど、インパクトのある演奏でした!

 

この曲はその後も山田剛史さんが2021年第28回でこれまた素晴らしい演奏をすることとなり、「不屈の民」の嬉しい連鎖となりました。

 

さて、その中川さんと、スーパー・バリトンである松平敬さんが一緒に演奏することになりました!2019年の第24回を皮切りに、2020年第27回、2022年第30回、そして最終回の2023年第33回とデュオでご出演され、圧倒的な名演を聴かせてくださいました。

 

お二人での初回となった第24回ではシューマンの歌曲と、テニスン作・リヒャルト・シュトラウス作曲の「イノック・アーデン」。

テニスンの訳は作家の原田宗典さんのものでした。なんと当日、原田氏ご本人聴きにいらしてくださり、とても喜んでくだったのも、音楽祭の忘れられない一場面です。

 

その後はシューベルトの「冬の旅」全曲、さまざまな作曲家の初期の作品と晩年の作品を組み合わせたもの、マーラー・プロジェクトなど、そのプログラミングはお二人の膨大な知識量、知性の鋭さ、そして音楽愛がなければ有り得ないもので、そしてそれを音に具現化する揺るぎない実力に、毎回毎回、舌を巻き、頭が下がる思いでした。

 

第33回の第3夜、テッセラ音楽祭の本当の締めくくりの曲は、お二人によるマーラーの「告別」。永遠に、永遠に、とうたうピアニッシモの音色が、サロン・テッセラの床に、壁に、そして時空に染み込んでいくのが見えるようでした。